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食品の品質を取り巻く最近の動きと品質保証の視点

はじめに

近年、食品の品質を取り巻く環境は大きく変化しています。HACCPの制度化を契機として、多くの食品事業者において品質保証の仕組みは一定程度整備されてきたと考えます。一方で、その後の技術革新や国際的な動向の変化により、従来の取り組みの前提や重点を見直す必要性が高まっています。
本稿では、食品の品質に関する最新の動向を整理するとともに、これらの変化に対して品質保証がどのような役割を果たすべきかについて考えてみたいと思います。その際の前提として強調したいのは、品質保証は事業を先回りして統制する存在ではなく、事業が安全かつ安定的に進むための方向性を示す「ナビゲーター」であるという点です。

1. 制度・規格の進化とその意味

まず、制度や規格の面での変化として注目されるのが、国際的な食品安全の枠組みの進化です。Global Food Safety Initiative(GFSI)が主催する国際会議においては、食品安全文化(Food Safety Culture)やサプライチェーン全体での保証(End-to-End Assurance)といった考え方が継続的に議論されており、近年では「Food Safety is Everybody’s Business」という考え方のもと、組織全体で食品安全に取り組む重要性が示されています1)。従来は認証取得そのものが一つの到達点と捉えられることもありましたが、現在では、認証の有無にとどまらず、「実際に機能しているか」「組織に根付いているか」といった実効性(Performance)が重視される方向に変化しています。こうした考え方は、品質保証を事業の実態に即して捉える必要があるという筆者のこれまでの考え方とも一致するものです。現場が変わる!食品品質保証の最新動向と成功のヒント(第4回)のコラムでも述べたように、品質保証は一律の正解があるものではなく、事業の進み具合や実態に応じて最適な在り方を見極めることが求められており、形式的な仕組みの整備にとどまらない運用が必要とされています。

東京海洋大学 松本隆志先生コラム 現場が変わる!食品品質保証の最新動向と成功のヒント(第4回)「どこから手をつける?」品質保証体制の着手と立て直し

また、HACCPについても、その考え方が発展しています。米国のFood Safety Modernization Actに基づき、U.S. Food and Drug Administrationが定めた予防管理規則(Preventive Controls for Human Food)では、HARPC(Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls)の考え方が導入されています。これは、従来のCCP中心の管理に加え、サプライヤー管理やアレルゲン管理、環境モニタリングなどを含めた予防的な管理を重視する枠組みです2)。日本においても、HACCP制度化を契機として、単なる制度対応にとどまらず、より広範なリスクを対象とした管理の必要性が認識されつつあります。現時点で米国のHARPCのような枠組みがそのまま法制度として導入されているわけではありませんが、サプライヤー管理やアレルゲン管理の強化など、予防的な管理の考え方は今後一層重視されると考えられます。

さらに、食品表示制度においては、消費者庁による食品表示基準の見直しにより、特定原材料の追加などアレルゲン表示に関する改正が行われています3)。これにより、製造工程における管理だけでなく、原料調達や表示の正確性を含めた一体的な品質保証の必要性が高まっています。

これらの動向に共通しているのは、「形式的な対応」から「実効性のある運用」へのシフトです。品質保証としては、新たな制度や規格を追加すること自体を目的とするのではなく、自社の事業に照らしてどのように活用し、実際のリスク低減につなげるかを見極める視点が求められます。

2. 技術とデータ活用の進展

次に、技術面での変化として、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展が挙げられます。製造記録や温度管理のデータが電子化され、IoTによって設備や環境条件をリアルタイムで把握できる環境が整いつつあります。さらに、これらのデータを蓄積・解析することにより、異常検知や品質予測といったデータ駆動型の管理への展開も進みつつあります4)
こうした動きは、業界団体の取り組みにも見られます。例えば、一般財団法人食品安全マネジメント協会の関連会議においても、記録の電子化や現場のペーパーレス化に関する取り組みが紹介されており、現場での運用負荷の軽減や情報共有の迅速化が期待されています。また、レシピ情報から食品表示を自動生成するシステムなど、品質保証に関わる業務を効率化するツールも普及しつつあります。

しかしながら、DXは品質保証部門だけで完結する取り組みではありません。実際の導入においては、製造、開発、購買といった他部門との連携が不可欠であり、事業全体としてのメリットが明確でなければ定着は難しいのが実情です。記録の電子化やデータ活用も、それ自体が目的ではなく、現場負荷の低減や業務効率の向上といった具体的な価値につながることで、はじめて継続的な取り組みとなります。
この変化は、品質保証のあり方にも大きな影響を与えています。これまで品質保証は「記録を確認する」ことが中心でしたが、今後は「データを分析し、変化の兆候を捉える」役割へと変わっていくと考えられます。すなわち、過去の結果を確認する機能から、将来のリスクを予測する機能への拡張が求められています。

また、品質評価に関わる分析・検査技術の分野においても進展が見られます。特に微生物検査においては、迅速検査技術の普及が進んでおり、従来の培養法に加え、ATP測定や迅速検出キットなどの活用により、短時間で衛生状態や汚染の有無を把握することが可能となっています。こうした技術は、現場での迅速な判断を可能にするとともに、検査結果をデータとして蓄積・活用することで、工程管理の高度化にもつながります。実際に食品製造現場では、ネオジェンジャパン株式会社のATP検査システム迅速検査キットなどが活用されており、品質管理の迅速化と効率化が進められています5)

さらに、近年ではフードテックと呼ばれる新技術の開発が進み、新しい食品や製造プロセスが次々と生み出されています。これらの技術は事業の成長に大きく寄与する可能性を持つ一方で、安全性や品質に関する検証を事業と並行して進めなければ、技術として成立しても製品として市場に投入できないという事態を招く可能性があります。品質保証は、こうした新技術の開発段階から関与し、事業と連携しながら品質・安全の観点を整理していくことで、事業化に向けた道筋を示す役割を果たすことが期待されます。

こうした取り組みを導入すれば自動的に品質が向上するものではありません。鍵となるのは、自社の製品特性や製造条件に適した形で活用することです。品質保証は、技術導入を主導するのではなく、事業全体の中でその活用方法を整理し、適切な方向性を示す必要があります。その意味で、品質保証は技術を「管理する立場」ではなく、事業にとっての最適な使い方を示すナビゲーターとしての役割を担うことが求められます。

3. 品質保証の役割の変化

制度や技術の変化に伴い、品質保証に求められる役割も変わりつつあります。その大きな変化の一つが、管理の対象が自社の製造工程にとどまらず、サプライチェーン全体へと広がっている点です。原料の調達先が多様化し、海外からの調達や委託製造が増える中で、従来の自社工場中心の管理だけでは対応が難しくなっています。トレーサビリティの確保やサプライヤー管理の重要性は、GFSIにおいてもサプライチェーン全体での保証(End-to-End Assurance)として示されており、その位置付けは今後さらに高まると考えられます。

また、食品安全文化という考え方も広く認識されるようになっています。近年では、この食品安全文化を定量的に評価しようとする取り組みも進められており、従業員意識調査や評価指標の設定などが行われています。一方で、こうした取り組みを形式的に導入するだけでは十分とは言えません。品質トラブルの発生状況や教育訓練の実施状況といった具体的な指標と結び付けて捉えることで、はじめて実務的な意味を持つものになります。食品安全文化は、評価そのものが目的ではなく、日常業務の中でどのように機能しているかを確認するための視点として活用することが望まれます6)

さらに、近年ではサステナビリティとの関係も注目されています。食品ロス削減や賞味期限延長の取り組みは、品質と環境の両立という観点から関心が高まっていますが、これらは必ずしも品質保証部門だけで完結するものではありません。むしろ、製造、開発、営業などの各部門と連携し、事業全体として取り組むことが前提となります。品質保証としては、これらの取り組みを単独で推進するのではなく、事業の方向性と整合させながら関与の仕方を整理することが重要となります。

このように、品質保証の対象や関係する領域は広がっていますが、ここで注意すべき点があります。それは、品質保証が事業に先回りして過剰な管理を導入してしまうことです。サプライチェーンや食品安全文化、サステナビリティといった要素をすべて管理対象として取り込もうとすると、管理項目が増え、現場との乖離が生じ、結果として実効性が低下する可能性があります。

品質保証は、あくまで事業と並走しながら、その方向性を示す存在であるべきです。対象が広がる中においても、それらをどのように自社の事業に取り込み、どこに重点を置くかを整理することが求められます。事業の実態を踏まえずに理想的な仕組みを追求するのではなく、現実の制約の中で最適なバランスを見出すことこそが、品質保証の役割といえます7)

最後に

食品の品質を取り巻く環境は、制度、技術、社会的要請のいずれの面においても変化が続いています。こうした中で、品質保証に求められる役割も従来とは異なる広がりを見せています。
しかし、その本質は変わりません。品質保証は事業を制御するための仕組みではなく、事業が安全かつ安定的に進むための道筋を示すナビゲーターです。新たな制度や技術、考え方を取り入れること自体が目的ではなく、それらをどのように自社の事業に結び付け、どこに重点を置いて活用するかを整理することが鍵となります。

特に、サプライチェーンの拡大や食品安全文化、サステナビリティといった新たな要素については、品質保証単独で対応するものではなく、事業全体の中での位置付けを明確にし、関係部門と連携しながら進めていく必要があります。その中で品質保証に求められるのは、すべてを管理することではなく、何を優先すべきかを見極め、その方向性を示すことです。

変化の大きい時代だからこそ、自社の立ち位置を踏まえ、必要な取り組みを選択し、過不足のない形で実行していくことが求められます。本稿が、品質保証の在り方を見直す一助となれば幸いです。

出典
  1. GFSI、GFSI Conference、https://mygfsi.com/events/gfsi-conference/ (2026年3月31日最終閲覧)。
  2. U.S. Food and Drug Administration、Food Safety Modernization Act(FSMA)および Preventive Controls for Human Food(21 CFR Part 117)、https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-B/part-117 (2026年3月31日最終閲覧)。
  3. 消費者庁、食物アレルギー表示に関する情報、https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/ (2026年3月31日最終閲覧)。
  4. GFSIカンファレンス2025、エグゼクティブ・サマリー 食品安全推進のためのテクノロジーとデジタル化の活用、https://mygfsi.com/wp-content/uploads/2025/05/GFSI-Conference-2025-Executive-Summary_ja.pdf (2026年3月31日最終閲覧)。
  5. ネオジェンジャパン株式会社、微生物検査、https://neogen.jp/microbiology/(2026年3月31日最終閲覧)。
  6. 松本隆志(2024)、「食品製造者における食品安全文化の醸成と品質保証の強化」、日本食品科学工学会誌、71(11)、P.427-440。
  7. 松本隆志(2022)、「食品製造者における品質保証に関する実態調査-HACCP 制度化後に取り組むべき品質保証に関する考察-」『日本食品科学工学会誌』69(9)、p.431-442。

執筆者

松本 隆志 先生

東京海洋大学 学術研究院 食品生産科学部門教授

松本隆志氏 略歴
京都大学農学部食品工学科卒業。博士(農学)。
株式会社中埜酢店(現Mizkan)を経て、味の素株式会社にて食品研究所品質評価・解析グループ長、品質保証部部長(食品事業担当)、川崎工場品質保証部長、タイ味の素品質保証部長を歴任。2018年10月から東京海洋大学 学術研究院 食品生産科学部門教授