はじめに
セパシア菌(Burkholderia cepacia complex:BCC)は、米国において医薬・化粧品やパーソナルケア製品における汚染リスクとして注目が高まっている微生物です。FDAによる注意喚起やUSPにおける試験法の整備、さらには製品回収事例を背景に、品質管理上の重要課題として認識されつつあります。本記事では、国内ではまだ十分に知られていないセパシア菌のリスクについて、歴史的背景、アウトブレイク事例、規制・業界動向を踏まえながら、化粧品・製薬メーカーが今後押さえておくべきポイントを解説します。
歴史的背景
セパシア菌(Burkholderia cepacia complex)は1950年にタマネギの軟腐病、球根腐敗の原因の新種の植物病原菌として発見されPseudomonas cepaciaと命名された1。1960年代から1980年代にかけて臨床分離例が増加し、嚢胞性線維症患者における呼吸器感染症の原因菌としても報告されるようになった2。
1992年には16S rRNA解析に基づく分類学的再編によりBurkholderia属が提唱され、複数種からなる複合体(Burkholderia cepacia complex:セパシア菌群)として再定義された¹。現在では様々な環境中(土壌や水中など)に存在する非発酵性のオキシダーゼ陽性グラム陰性桿菌として広く認識されている。
アウトブレイク事例
世界的な統計
1971年から2019年までのシステマティックレビューでは、111件のBCCアウトブレイクが報告され、そのうち53.2 %が医薬品または医療用溶液、12 %が消毒剤に関連している。また2390症例中240例の死亡が報告されており、代表的な地域別では欧州:20件、北米:38件、アジア:29件のアウトブレイクが報告されている3。
欧州での事例
スイスの医療施設では未開封の洗浄用手袋の汚染に起因する院内感染(4症例)が報告されている4。さらにドイツを含む複数国において、マウスウォッシュ製品の汚染に関連するアウトブレイクが報告されている5。英国およびアイルランドでは、非無菌の超音波ジェル等に関連する広域アウトブレイクとして、Burkholderia cepacia 153例およびBurkholderia contaminans 66例が報告されている6。加えて英国では、スキンクレンジングワイプに関連するアウトブレイクとして59症例および1死亡例が報告されている7。
米国での事例
米国では、2016年の経口ドキュセート製剤に関連するアウトブレイクで8州にわたり60症例が確認されている8。また、2016年から2017年にかけてのプレフィルド生理食塩水フラッシュに関連するアウトブレイクでは、5州・59施設において162症例が確認され、81 %が入院し7例の死亡が報告されている9。さらに、皮膚用クレンジング製品に関連する事例において、製品由来株と患者由来株の遺伝的一致が報告されている10。
日本での事例
日本においては、BCCは主に院内感染として報告されており、2011年の新生児集中治療室における事例では、院内伝播が確認されたものの感染源は特定されなかったと記載されている11。
規制・業界動向
日本
規制および業界団体の動向については、日本では日本薬局方や日本化粧品工業会が品質および安全性確保の指針を提示しており、日本薬局方においても非無菌製品の微生物試験が規定されているが、Burkholderiaは指定微生物として記載されていない12,13。
米国
米国においてはPersonal Care Products Councilが品質保証ガイドラインを公表しており、ISO 22716に基づくGMPが求められている。一方でFood and Drug Administrationは、Burkholderia cepacia complexが非無菌医薬品における汚染リスクであることを公表しており14、2021年のドラフトガイダンスにおいてobjectionable microorganismsの例として記載している15。
欧州
欧州ではCosmetics EuropeがEU化粧品規則(Regulation (EC) No 1223/2009)に基づく安全性確保を支持している16。微生物品質についてはInternational Organization for StandardizationのISO 17516およびISO 22716が参照されており、微生物数および特定微生物の管理が規定されている17。しかし、これらの規格においてもBurkholderiaを特定微生物として明示されてはいない。
まとめ
以上の事実から、セパシア菌(Burkholderia cepacia complex)は歴史的に植物病原菌として記載された後、医療分野での感染原因菌として認識され、分類学的再編を経て複合体として再定義された。その後、医薬品および医療製品を含む非無菌製品に関連するアウトブレイクの原因菌として国際的に報告されている。一方で、規制文書および業界団体の公開資料においては、Burkholderiaが特定の指定微生物として明示されていない場合があるものの、FDAでは非無菌医薬品における危害として掲載している。これまでの報告では、医薬品、医療機器、化粧品、パーソナルケア製品等の非無菌・水系製品に関連した事例が国際的に報告されており、日本国内においても危害微生物の一つとして理解しておきたい。
- 著者:ネオジェンジャパン|公開日:2026年5月
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参考文献
- Yabuuchi E. et al. (1992):https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/j.1348-0421.1992.tb02129.x
- Mahenthiralingam E. et al. (2005):https://www.nature.com/articles/nrmicro1085
- Häfliger E. et al. (2020):https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8335909/
- Priore E. L. et al. (2020):https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8335913/
- Bender J.K. et al. (2022):https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9007922/
- Doran J. et al. Infection Control & Hospital Epidemiology (2025), 46, 1006-1012
- Carrol A. et al. Eurosurveillance Volume 31, Issue 9, 05/Mar/2026
- CDC:https://archive.cdc.gov/www_cdc_gov/hai/outbreaks/b-cepacia/index.html
- Brooks B. B. et al. CID, Volume 69, Issue 3, 1 August 2019, 445–449
- Dolan S. et al. AJIC, Volume 33, Issue 5, E110-E111, June 2005
- Kuzumoto M. et al. Eur J Med Res (2011) 16: 537-542
- 厚生労働省 化粧品基準
- 日本薬局方 第十八改正
- FDA Safety Communication:https://www.fda.gov/
- FDA Draft Guidance (2021):https://www.fda.gov/media/152527/download
- Regulation (EC) No 1223/2009:https://eur-lex.europa.eu/
- ISO 17516 / ISO 22716
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