食品事業者における品質保証業務(2022年第1回)

知りたいけど、誰も教えてくれなかった
品質保証業務の全体像について

はじめに

筆者は29年半、食品企業に在籍し、前職では本社や工場、海外で品質保証と品質管理の業務に携わりました。本学に着任後3年余りで、その間食品企業における品質保証人材育成の調査研究など、 研究者の立場で品質保証に関わっています。その研究が縁で本コラムを執筆する機会を頂き、大変光栄に思います。

品質保証や品質管理の業務を遂行するには知識や経験、能力が必要であり、難しい仕事です。筆者はその業務に携わりながら、次のようなことを考えていました。

「食品安全は当たり前、安全なものを作って当然と思われ、なかなかわかってもらえない(評価されない)」
「クレーム・トラブルが減少してきた。しかし、努力の成果か偶然か、わかりにくい」
「レベルをあげたいが、ハードルを上げ過ぎると事業に影響がある。また、間接部門だけに、投資が容易ではない(特にトラブル・問題がない時)」
「人事異動などで人材育成が難しい」

読者の多くは品質保証や品質管理に従事され、共感していただけることがあると思います。6回の連載を通じて、筆者が如何に問題や課題を克服したかということも含めてお伝えします。第1回は、“知りたいけど、誰も教えてくれなかった品質保証業務の全体像について”がテーマです。

品質に関わる用語

各企業によって、次の用語の解釈や従事者の役割が異なる部分があると思いますので次のように定義します1)

・品質マネジメント(Quality Management):品質保証と品質管理の上位概念です。品質方針と品質目標を定めて目標を達成するために、
    計画を立てて推進する活動であり、全社或いは工場など、品質保証以外の広い組織に関わります。品質保証部門が担うことが多いと思います。
・品質保証(Quality Assurance):製品の企画設計段階から商品として顧客に至るまで、顧客の要求事項を保証するための活動です。
    本コラムにおいて主な対象とします。
・品質管理(Quality Control):製品の品質要求事項を満たすために、製造などにおいて品質を維持
・向上するための活動です。
・品質(Quality):広義の品質は経営品質など範囲が広くなりますので、製品品質を対象にします。

品質保証の業務

筆者の調査研究1)によると、食品大手8社の本社の品質保証部門には次の共通する業務がありました(図を参照)。同じ企業内でも工場の品質保証では異なる役割があると思いますし、また企業によっては食品安全に関わる検査分析や消費者対応の役割を含む場合があると思います。

① 品質マネジメント:上記「品質に関わる用語」を参照。
② QMS※1・FSMS※2の維持・向上:組織や工場などの範囲を設定してマネジメントシステムを構築します。QMS として
      ISO9001 認証規格や、FSMSとしてJFS-C などのGFSI※3承認 認証規格が普及しており、これらの認証規格を活用して、システムを継続的に維持・
      向上させて有効なものにします。
※1 QMS:Quality Management System、品質マネジメントシステム
※2 FSMS:Food Safety Management System、食品安全マネジメントシステム
※3 GFSI:Global Food Safety Initiative、世界食品安全イニシアティブ

③ 品質関連の社内基準・ルールの作成:品質関連法規の導入・改訂や、食品安全に関する世の中の関心や顧客の要望に従い、ルール・基準を
     新しく作成し、また改訂を行います。
④ 品質関連の課題・問題への対応:リスクマネジメントのことです。その中で、定常的な業務ではありませんが、特に食品リコールのように
      企業やグループ全体に影響する重大な問題が発生した場合、迅速で適切な対応を行うことをクライシスマネジメントと言います。
      製品の出荷可否、廃棄やリコールなどの重大な判断をする場合、食品関連法規や食品安全、製品規格などを考慮することから、品質保証部門が
      必然的に中心となります。社内の製造出荷までのサプライチェーン、更には社外を含めた全体のサプライチェーンにおいて、課題や問題の対象の
      範囲を特定し、原因の追究や対策を講じます。範囲の特定においては、トレーサビリティが関連します。
⑤ 製品導入時の審査・承認:新製品を導入し、また改訂する前に食品関連法規の遵法性を審査します。製品の仕様において関連する法規が
      遵守されていること、また食品安全上に問題がないことを審査し、社内で定めた規格の適合性を含めて導入前に確認をします。
      食品関連の法規が新たに施行され、また既存の法規が改訂されて、その都度情報を更新して対応する必要があります。
⑥ 品質関連の教育:品質保証部門の人材を育成するために教育をすることに加えて、他部門において品質に関わる人材、或いは全社的な教育を
     担います。

最後に:品質保証は事業のナビゲート

品質保証は製品があってこその業務であり、ハードルを高くし過ぎると事業が成り立たず、本末転倒になります。
筆者が悩んでいた時に、かつての上司から「品質保証は事業のナビゲートだよ」とアドバイスを受けました。役割や仕事の内容は変わりませんでしたが、この上司の言葉で霧が晴れたように仕事への取り組み方や、他の役割の人との接した方が変わりました。
ご参考にしていただけましたら幸いです。

松本先生コラム一覧

2022年

第一回

食品事業者における品質保証業務
知りたいけど、誰も教えてくれなかった品質保証業務の全体像について

第二回

食品事業者に役立つ品質保証・品質管理 品質保証体制の構築
―HACCP 導入後の品質保証関連の取り組みについての提案―

第三回

食品事業者に役立つ品質保証・品質管理
フードサプライチェーンの品質保証 ―原材料管理―