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グローバル対談「食物繊維分析法の現状と国際的調和に向けた課題」Vol.1​
国内外の食物繊維の定義と分析法の現状

はじめに:食物繊維の重要性と標準化の課題

食物繊維の摂取は、腸内環境の改善作用をはじめ、糖脂質代謝の調節や生活習慣病の予防など、多様な機能からますます注目・重視されるようになってきています。また、食物繊維は加工食品の原料としても、最終製品の増粘・保形・保水用途や、脂肪やたんぱくの代替素材として重要な役割を担っています。一方で食物繊維の定義とその定義に基づく定量については現在でも多くの課題を抱えており、Codex Alimentarius(CODEX)やAOAC International(AOAC)など国際的標準化団体や各国における定義および分析法の不統一が、国をまたいだ際の栄養成分表示規制の不一致や、食事摂取基準や研究結果の正しい比較の妨げとなっています。本対談では、食物繊維向け分析用酵素試薬の世界的ブランドとして、約30年分析法の開発や国際調和を担ってきたネオジェン社(旧Megazyme社と2021年に統合)のクラウディオ・コルナッジャ博士の来日に合わせ、日本の食物繊維の定量法や生理機能に関わる栄養科学研究の第一人者である田辺賢一准教授を中村学園大学からお招きし、それぞれの立場から現状と課題について議論していただきました。議論には、食物繊維の定義および分析法の標準化の難しさの明確化や、技術や規制上の課題の整理を含みます。
ネオジェン社は食物繊維分析法の国際的な標準化の議論に長年関与しており、その過程で得た知見を皆様と共有してきました。本対談は、そうした取り組みの一環として、今後の国際調和に向けた議論を深める場となっています。

自己紹介:研究者と分析法開発者の立場から

はじめにご挨拶と自己紹介をお願いいたします

コルナッジャ:私はネオジェン社のMegazyme部門で事業開発マネージャーを務めており、専門は有機化学です(ダブリン大学トリニティカレッジにて博士号取得)。学位取得後に旧Megazyme社に入社し研究開発部門に所属、主任研究員や有機化学部門の責任者を務めました。旧Megazyme社の当時のCEOで食物繊維研究の権威であるバリー・マクレアリー博士(Dr. Barry McCleary)と共に、食物繊維およびその構成成分に関する新規分析手法の開発に主要メンバーとして参加しました。開発に携わった分析法には、食物繊維定量法(AOAC 2009.01、2011.25、2017.16、2022.01)、難消化性でんぷん定量法(AOAC 2002.02)、β-グルカン定量法(AOAC 995.16)など、AOAC Official Methods of Analysis (OMA)やCODEXのType I Methodとして認証を受けたものが多くあります。

2021年に旧Megazyme社がネオジェン社と統合したので、現在はネオジェン社のMegazyme部門の事業開発マネージャーとして、EUを中心に世界各国の規制当局や食品にかかわる幅広い業界団体と連携し、食品の栄養成分や品質にかかわる分析・検査分野で精力的に活動しています。ネオジェン社は食品安全、微生物に強みを持つ企業です。そのため旧Megazyme社時代から蓄積されてきた知見に基づく、酵素を用いた食物繊維やβ-グルカンなどの定量法はネオジェン社の新しいポートフォリオとして、新たな価値を皆様に届けています。

ネオジェン社はAOACやCODEXの分析・サンプリング法部会(CCMAS)などにおいて、定義や分析法の標準化に携わっております。これらの組織においても食物繊維の定義や分析法に関する議論は継続議題なので、現在私たちの立場で知りうる最新の情報をご共有できればと思います。また、田辺先生の発表された論文は興味深く読ませていただいております。これまでも難消化性オリゴ糖の定量に関する多くの質問が寄せられているのですが、その際には田辺先生の論文を参照しご説明することもあります。

田辺:私の専門は栄養科学になります。これまで、食物繊維を含め、難消化性糖質の生体利用性と生体調節機能に関する研究を中心に研究に取り組んできました。定量法に関しては、大学院から始めた研究で、博士論文の研究テーマは、難消化性糖質の包括的定量法の開発でした。現在は、葉酸欠乏の改善における難消化性オリゴ糖の役割について精力的に研究しています。これまでの研究キャリアとして、先にも話しましたが、主に食物繊維や難消化性オリゴ糖の生体利用性や生体調節機能に関する研究を行ってきました。そのため、私は分析化学の専門家と言うわけではありません。ただ、前述の生体利用性や生体調節機能の議論の際には、ある食品が消化されるかどうか、ということが非常に重要となります。そのため、本日はそうした観点、つまり食物繊維を栄養科学の立場からお話できる者として、この場に呼んでいただけたのかと思っています。

日本の定義:独自のルミナコイド概念

導入として日本における食物繊維の定義とその国際的な立ち位置についてお話ください

田辺:日本の政府が定めた食物繊維の定義は、「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と現在もされていると思いますが、最近はCODEXの定義 1(表1)を意識し、前述の定義はあまり明言されなくなってきています。日本の定義は、日本食物繊維学会による「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」がベースになっていた経緯があります。
経緯を説明すると長くなりますが、現在は、日本食物繊維学会は食物繊維を包括した新しい概念として「ルミナコイド(Luminacoid)」という用語を提唱しています 2(図1)。ルミナコイドについては、後程、お話します。

表1. CODEXの食物繊維の定義 1
「食物繊維」とは、人間の消化管に内在する酵素で加水分解されない以下の分類に属する、10又はそれ以上の単量体 aからなる炭水化物ポリマー bをいう:
• 摂取される食品に天然に存在する食用の炭水化物ポリマー (難消化性でんぷんを含む)
• 食品原料から物理的、酵素的又は化学的手段により得られ、管轄当局に対して一般に受け入れられる科学的根拠により実証された、 健康への生理学的な効果を有することが示されている炭水化物ポリマー
• 管轄当局に対して一般に受け入れられる科学的根拠により実証された、健康への生理学的な効果を有することが示されている合成 炭水化物ポリマー
a. 3から9の単量体からなる炭水化物を含めるかどうかの判断は各国当局に委ねる。
b. 植物原料に由来する場合、食物繊維にはリグニンの分画あるいは植物の細胞壁に由来する多糖類に関連したその他の成分が含まれる。また、これらの成分は食物繊維の
ための特定の分析方法により測定される。しかしながら、抽出後に食品中に再導入された場合、これらの成分は食物繊維の定義に含まれない。
図1. 日本食物繊維学会によるルミナコイドの分類 2

コルナッジャ:日本では食物繊維の明確な定義はないものの、分析値の用途が分析法の選択に反映されているということですね。

田辺:日本食品標準成分表は2023年に2020年(八訂)版に更新され、追記した増補版が発刊されています 3。この(八訂)増補版の発刊された2023年頃から、公的文章において、先程述べた日本独自の食物繊維の定義を見る機会が減ってきたように感じています。前述の定義の考え方のベースとなっていたのは、日本食物繊維学会が提唱してきたルミナコイドという分類です。ルミナコイドの定義は「ヒトの小腸内で消化・吸収されにくく、消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分」であり、食物繊維や難消化性でんぷん、糖アルコールを包括した用語です 2。国内の食物繊維の定義や分析法に関しては、日本食物繊維学会が国から相談を受けることがあったと聞いています。したがって、1980年代に日本食物繊維学会がルミナコイドの分類に基づき定義した「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」が、現在まで国内では食物繊維の定義として残っていると考えています。

国際比較:CODEXとの相違点

コルナッジャ:日本の食物繊維の定義では炭水化物に定義の範囲を限定していないのが、CODEXの食物繊維の定義との大きな違いかと思います。

田辺:おっしゃる通りで、ルミナコイドの分類では、難消化性たんぱく質(レジスタントプロテイン)も食物繊維の定義に当てはまります。また、オリゴ糖や糖アルコールなども食物繊維の定義には当てはまります。たしかに、この違いは大きいですね。

コルナッジャ:CODEXでは糖アルコールは炭水化物に分類されています。また、糖アルコールは砂糖の代替として使用することで砂糖の過剰摂取リスクを低減できるという機能を有しています。従って、分子量の線引きの問題はありますが、食物繊維と分類されても良いかと思っています。

田辺:糖アルコールに関しては、単糖もあることから、一概に食物繊維と分類することが難しい部分があると思っています。ただ、ルミナコイドの概念であれば、糖アルコールも1つのカテゴリーになります。
話は少し変わりますが、日本の中でもCODEXの定義に基づいて食物繊維を定義すべきという研究者は多くいます。私が学会発表を行った際に「食物繊維には二糖を含むのですか?」といった質問を受けることがあります。CODEXの定義では重合度3以上であることが食物繊維と定義する上での要件の一つです。一方で、栄養学では糖質は単糖、オリゴ糖、多糖の3つのカテゴリーしかありません。難消化性の総体をベースに考えるのであれば、「食物繊維には二糖を含む」とするのが科学的根拠からはあっているのではないかと思っています。

コルナッジャ:国によって栄養成分の分類は異なります。新規食品素材を食物繊維として分類するためには、国によっては申請が必要で、生理的効果があることを証明しなければいけない場合もあります。例えばセロビオースはヨーロッパでは食物繊維として認められていません。またラクチュロースは胃腸での機能を持ちますが糖類の一つとされることが多いです。ある食品素材について、そもそも食物繊維であるのか、機能性食品の関与成分であるのかなど、定義や分析法とともに、現在アメリカや欧州委員会でも議論されているところです。食物繊維は消費者の健康を考えた際に重要な栄養成分のひとつですので、この議論を深めることは大切なことと考えています。

現場への影響: 食事摂取基準における分析法の切り替え

田辺:日本における食物繊維の分析法が分析値とその解釈に影響を与えた話をさせてください。日本では国民健康・栄養調査の結果において、2018年までは食物繊維摂取量は食事摂取基準で定められた目標量に達していないとされていました。ところが、食事摂取基準を制定する際に参照される食物繊維の分析法を従来のプロスキー変法からより幅広い食物繊維の定量が可能なAOAC 2011.25法に変更した翌年には、日本人の食物繊維摂取量が急激に増えたデータが得られました。これは、食事摂取基準を基に献立を考える、日本の学校給食や病院給食業界などの現場に大きな衝撃を与えました。
分析法の違いによる定量範囲の拡大が要因と考えられますが、その要因は、穀物からの食物繊維摂取量が増えたことであると推測されている報告もあり、日本の研究者の中でも混乱が生じました。

コルナッジャ:分析法の違いが、どのように食物繊維の分析値の解釈に影響をおよぼしたのですか?

田辺:食物繊維の摂取量は、国民の食事調査結果から食品の種類と量を把握した上で、日本食品標準成分表を基にして、各食品に含まれる食物繊維の量を算出・合計することで算出します。今回のケースでは、参照先の日本食品標準成分表で採用されている定量法が異なることが影響していました。従来法であるプロスキー変法が主要な分析法であった際には、「水溶性食物繊維」+「不溶性食物繊維」=「食物繊維総量」でした。ただし、この分析法では、本来は食物繊維として定量されるべき「低分子量水溶性食物繊維」は定量できません。そのため、AOAC 2011.25法を用い「低分子量水溶性食物繊維」を含めた定量が可能になったため、食物繊維総量の定量値が増加した要因の一つになっています。食物繊維を取り扱う企業からも、国民健康栄養調査の結果が「水溶性食物繊維」+「不溶性食物繊維」=「食物繊維総量」とならないのはなぜか、という質問をいただくことがありました。それほど、日本においては、プロスキー変法が食物繊維のゴールドスタンダードであったことが分かります。

食品ビジネスと輸出入への影響

コルナッジャ:食物繊維の分析法に関する研究を行う上で、田辺先生の今のお話は非常に興味深いです。食物繊維は世界的に栄養状態の向上を達成する上で重要な栄養成分の一つですので、日本の状況を知ることはわたしたちにとっても有意義です。
食物繊維の定義や分析法の違いによる混乱はグローバルに生じています。複数の国でビジネスを行う食品製造業の方々が、自社の製品を海外に輸出する時には、輸出先の行政が規定する栄養成分表示を行う必要があります。しかし、食品を製造している国と輸出先国の間で表示規制や公定分析法が異なることで、スムーズな輸出が妨げられてしまっています。

田辺:日本でも同じように食品を輸出する企業の方々から、輸出先国の食物繊維の表示や定量法が違うので、どの方法を選択すべきか?
というご相談はよく聞きます。その際は、輸出相手国の方法に合わせられるよう、提案しております。

結び:標準化への模索

食物繊維の定義や分析法の違いは、栄養成分表示や食品の輸出入に大きな影響を及ぼしています。こうした現状を整理し、国際的な議論と現場をつなぐことは、業界全体にとって重要です。ネオジェン社もまた、その一端を担う存在として、引き続き知見を共有してまいります。
 本シリーズ第二弾では、制度・技術・教育の観点から、国際的な調和に向けた現実的な道筋をさらに掘り下げます。

引用文献
  1. 厚生労働省.CAC/GL 2-1985 栄養表示に関するガイドライン(厚生労働省和訳).
    https://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/codex/06/dl/06a.pdf(access: 2025年8月20日)
  2. 桐山修八, 池上幸江, 印南敏, 海老原清, 片山洋子, 竹久文之. (2003). 日本における Dietary fiber の定義・用語・分類をめぐる論議と包括的用語の提案まで.
    日本食物繊維研究会誌, 7(1), 39-49.
  3. 文部科学省.日本食品標準成分表(八訂)増補2023年炭水化物成分表編.
    https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_kagsei-mext_00001_011.pdf(access: 2025年8月20日)

グローバル対談「食物繊維分析法の現状と国際的調和に向けた課題」Vol.2
食物繊維分析法の国際的調和に向けた課題

第一弾で整理した定義の違いや分析値のギャップを前提に、ネオジェン社のクラウディオ・コルナッジャ博士と中村学園大学の田辺賢一准教授が議論を深めました。テーマは、AOAC 2017.16/2022.01 法の位置づけ、日本の公定法・標準成分表への導入、そして分析現場・行政・教育現場に何が求められるのかという点です。これらを制度・技術・教育という三つの観点から取り上げ、食物繊維分析法の「国際的調和」に向けた、より実務的・現場目線の課題を掘り下げています。